絵巻物で読む 伊勢物語
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伊勢物語絵巻三段(ひじきも)




むかし、をとこありけり。懸想じける女のもとに、ひじきもといふ物をやるとて、
  思ひあらば葎の宿に寝もしなむひじきものには袖をしつゝも
二条の后の、まだ帝にも仕うまつりたまはで、ただ人にておはしましける時のことなり

(文の現代語訳)
昔、男があった。その男が思いを寄せている女のもとへ、ひじきもという物を贈ると言って、つぎのような歌を歌った。 
  私を思ってくれるのでしたら葎の生い茂った宿で供寝もいたしましょう、袖を敷物にしてでも
二条の后がまだ帝にお仕えする前の、普通の身分の人であったときのことである。




(文の解説)
●懸想じける:思いをかける、●ひじきも:食用の海草、●葎の宿:むぐらは雑草、その雑草の生い茂ったあばら家のこと、●ただ人:普通の身分の人、
※ 歌の中の「ひじきも」は、海草という意味の上に、「敷物」という意味が重ねられている。

(絵の解説)
この絵は、男が女にひじきもを贈る場面を描いたもの。無論男が自ら女のもとに赴いたわけではなく、従者を通じて贈ったはずである。それは、従者の着ているもの(水干)からわかる。

(付記)
「二条の后」は、二条に邸があった藤原長良の娘高子。二十五歳の時に、当時十七歳だった清和天皇の后となった。業平よりは十七歳年下だった。伊勢物語は、二条の后がまだ普通の身分であったときに、在原業平との間でかわした愛の物語が中心となっている。なお、藤原高子は多感な女性だったらしく、寛平八年(896)五十四歳の時に僧侶善佑との密事が露呈して后位をはく奪された。



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