絵巻物で読む 伊勢物語
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伊勢物語絵巻十七段(桜花)




年ごろおとづれざりける人の、桜のさかりに見に来たりければ、あるじ
  あだなりと名にこそたてれ桜花年にまれなる人も待ちけり
返し、
  けふ来ずはあすは雪とぞ降りなまし消えずはありとも花と見ましや

(文の現代語訳)
長年来なかった人が、桜の花の盛りに見に来たので、あるじ(が歌うには)
  桜の花は移り気だと言われていますが、こうして年のうち滅多にやってこない人をお待ちしていましたことよ
返しの歌
  今日来なかったならば、明日は雪のように散ってしまうでしょうよ、たとえ消えずに残っていたとしても花のように見えたでしょうか

(文の解説)
●年ごろ:何年も、●あだなり、不誠実、移り気、●年にまれなる人:一年のうちでめったに来ない人、●来ずは:来なかったならば、●降りなまし:降ったことでしょう、「まし」は、「来ずは」の仮定に応じた推定、●消えずはありとも:たとえ消えずにいても

(絵の解説)
あるじと客が、庭に咲いた桜の花を眺めているところ。控えているのは客の従者か。

(付記)
※ 「年ごろおとずれざりける」と「年にまれなる」とは、厳密に言えば矛盾していることになるが、ここでは、言葉の勢いとして大目に見られている
※ 主が桜の花の殊勝さを強調しているのに対して、客がそうでもないと反論しているところが、このやりとりの面白さである
※ この段には、珍しく「むかし」がないが、真名本などには「昔」があるので、あるいは脱落したのかもしれない。







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